コーラ27年ぶりの値上げ【水広場的考察】
コカコーラが27年ぶりに値上げをするとのこと。
そのことが肝硬変になってようやく病院に行く患者のように見えるのは、こちらが酒飲みだから、というだけではないのです。
日本の清涼飲料市場は人間で例えれば肝硬変患者、重篤ながらガンまでいっておらず、深刻ながら治癒も不可能ではない、そんな状態です。
人間同様、経済も健康体でないと長続きしないわけですが、加工食品含む「モノ」セクターでは作り手、流通体、消費者にまたがる全体利益がそれぞれに適度に分散するのが健康体であり、利益が1者に集中する不健康体は長く維持することはできないのであります。
デフレと叫ばれ久しい日本、中でも清涼飲料の価格低下や低価格固定化は尋常でなく、川上側の負担を原資に消費者としての我々は知ってか知らずか大きな余剰を享受して長いことをご存じでしょうか。
物が安いことは消費者としての我々や年金生活者の皆様にとってプラス、他方でそのために給与を抑えられている労働者としての我々にマイナスなわけですが、現役労働世代、特に若い世代の手取り収入水準をみても、今のデフレは総じてマイナスであることは明瞭です。
デフレないし各市場の物価安にはイノベーションなど良い原因によるものと悪い原因によるものがありますが、清涼飲料セクターにおいては確実に後者であります。
悪い原因例をいくつか挙げましょう。
1.流通構造
日本の食品飲料の流通構造は川上はフラグメントで多数の小規模メーカーがひしめく一方で川下は大手小売りの合従連衡が進んだという不均衡状態につき、製造供給側の価格には小売側の意を汲まざるを得ない圧力がかかるわけです。
国内市場中心のメーカー各社は需要縮小の不況にあえぎ、セクター全体利益を考えている余裕はなく、自社及び原材料供給者の賃金を抑えざるを得ない水準の低価格で小売側の求める激安値に応じているのです。
2.大手メーカーの事業ポートフォリオと売上至上主義
諸外国と異なり、日本の大手飲料メーカーは酒類、製薬、不動産など他の稼ぎ頭をもっています。
清涼飲料事業単体ではトントンで問題なく、工場稼働率や物流シナジーなどを考慮すれば、売上さえ出ていれば清涼飲料単体では赤字でも仕方ないとされているフシもあるのです。
3.飲食品製造セクターの低賃金
他のセクターより恒常的に低く固定されている飲食品製造業の賃金水準。原価上昇に一定のキャップがかかっています。
4.規制者の不作為
例として、ドラッグストアはスーパーマーケット化し、原価割れとも見える低価格で飲料などを販売しています。
薬で儲かるため清涼飲料などは恰好の客寄せ素材というわけであります。
大前研一氏はこのようなドラッグストアの方策を称賛しましたが、あまりの視野狭窄さに失望しました。企業戦略家の限界というか、社会全体利益がマイナスになる可能性に気付いていないように見えます。
激安日用品で客寄せすれば薬を買う人が増えるのは当たり前であり、それは知恵ですらありませんが、商品の低価格固定が広がることは他方でイノベーションが利きづらい(=価格を下げる構造的転換の可能性が低い)飲料製造産業をじわじわと確実に害し、本来ありえた雇用と賃金を奪う。
財務省が酒類廉売を取り締まることができるなら、経済産業省はまず社会全体でマイナスつまり不当な廉売を制限する措置をとり産業の衰退を防ぎ賃金上昇余地をつくり、その余地ができれば雇用上これまで困難であったかもしれないメーカー同士の連携や合従を促し、健全な流通構造を構築する、という構想があってしかるべきとも思いますが、なんら動きが見えません。
とどのつまりは、この肝硬変を治すには一筋縄ではいかないということであります。
食品飲料セクターというのは大きなイノベーションが発生しずらい一方で、古今東西、絶対に必要な産業なわけです。
従前から指摘してきたとおり、マネーを増やせば物価が上がるという貨幣数量説は通用するわけがなく、今回結局通用しませんでした。
僕らがしていることは作り手の本来あるべき労働価値を反映したフェアプライスを一般の消費者の方々に理解してもらうことです。
そのために飲料それぞれの本源的な価値、天然水であれば当該水質や自然保護、水源のストーリーを含めた魅力を伝えるようにしています。
その上で、たまたま投資銀行の経験がある僕ができることとしたら、いびつな流通構造を是正するための合従連衡を少しでもお手伝いすることかもしれません。
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