全国飲泉めぐり 7.玉川温泉(秋田県仙北市)

世界の玉川温泉
エメラルドグリーンの国見温泉を出発し、田沢湖を1周してから341号線を北上、宝仙湖に沿って次々と快適に変化する景観に楽しませてもらっていると、いつの間にか車内に入り込んだ硫黄臭が鼻を刺激し始め、軽い驚きと共にさすがという期待感が広がる。玉川温泉という質素な目印を見つけ少し進むと、すぐ裏手に山裾を割った巨大岩盤が出現した。もくもくと硫黄性ガスで覆われている。
あたり一面から噴き出す火山性ガス  
玉川温泉には水蒸気、硫化水素、二酸化硫黄などを含む火山性ガスの噴気孔が100ヶ所以上あるらしい。ボカボコボカボコと音を立てる温泉水の湧出と幾多の穴からブシューブシューと吹き上がる地球のガス抜きが同じ場所で進行して止まる気配が全く無い。同質でこれほどの規模のものは現在世界にも類がないという。 
 
大噴
玉川温泉の源泉がこの大噴。98℃でpH1.2の強烈な酸性泉が大量に噴き出す。  
 
 
岩盤浴
玉川温泉が他の療養目的の温泉地と違うのは岩盤浴客が多いこと。それで有名になったのだから当たり前か。入浴客の多く飲泉目的のお客さんもいるけれど見る限り岩盤に横たわる湯治客が多数派のようだ。
 
 
北投石
調べるとこの温泉を特徴づける岩盤はラジウムを含有する重晶石とのこと、微量の放射性をもっている。温泉関係者の方に聞くと、放射線は鳥居が立つあたりが最大らしい。ここの石は国の特別天然記念物に指定されており気楽に拾って持ち帰ったりできない。重度の患者さんも多数おられるはず、不謹慎とは思いながら当関係者の方にずばり聞くと、末期症状を治すことは当然簡単なものではなく、ここは未病ないし初期段階での療養に適するものだと真剣におっしゃる。重度の患者さんが完治したという多くの実例は、同じ悩みを持つ方々との連帯感による精神面や土地の持つ独特な空気の作用など総合的な作用が考えられるのではという。
入浴と飲泉
この温泉水を初めて口にした1年前、おっちょこちょいの僕は舐める程度なら問題ないとくくり希釈せず口に含んでしまい途端に吐き出す粗相をしている。その時は取り寄せだったが今回やっと源泉そのものをトライできる。期待感と一緒に大浴場に入るとそこは自然の木をふんだんに使った奥行きの長い広い空間だった。個人的に大好きなタイプの構造。さらに風呂は泉質別にいくつかの枡形に分かれている。しかし僕らの目的は入浴でなく、それはさっさとすましてすぐに奥にある飲泉コーナーに向かう。僕にとって嬉しいことに源泉が希釈されずそのまま流れている。勿論希釈が必要であるから、隣に設置されたウォーターサーバーからの冷泉の大量加水によりやっと常人が耐えられる酸っぱさまでに希薄される。決して美味しくはないが、水の特徴を分かった上で構えて飲めば決して飲めない味ではない。ここでの飲泉は薬湯として飲まれているわけだ。
飲泉の効能
泉質で表現すると酸性含2酸化炭素・鉄・アルミニウム-塩化物泉。これまでいくつか今強酸性の源泉を訪ねたが、pH1.2は酸性度が最も高い。がん患者さんなどの多くは岩盤浴に来ており、岩から放出される微量放射線を浴びてNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化し免疫力を高めることを目的としている方が多い。一方で泉質と成分を単純にみると慢性消化器病や貧血などへの効能は理解できる。微量放射線が飲泉場で飲む源泉に多少含まれているなどで何らかの効果が体内で発生している可能性もあるのだろうけれど、他の源泉同様、実証するとなると費用やらで結構大変だろう。
患者さんの願い
玄侑宗久さんの「水の舳先」という作品では福島県のラジウム温泉における末期患者の湯治、そして湯灌(ゆかん)を通じて触れ合うほど水への深い思いや願いといったものが描かれている。少し宗教的な部分もあるけれど、治った実例も多々あるという療養地に惹きつけられるのは自然かとも考え、同じ思いの方々と過ごす時空も磁力なのだと今回改めて実感する。
田沢湖
玉川源泉の強烈な酸性水が流れ込んでいた田沢湖は生物がいない(?)というけれど今でも本当なのか興味深い。川下で中和処置がとられてから水質は変わったといい、何か住んでいそうな雰囲気がある。400m以上あるという水深は日本一らしい。行ったことないけれどネス湖のように僕らの想像力を刺激する神秘的な何かがある。

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