日本百名山に数えられる越後・巻機(まきはた)の山麓は柔らかさに特徴のある天然水の宝庫でした。
名峰・巻機について明るくない方でも、八海山など、この山のふもとで醸造される数々の銘酒のいくつかはご存知の方も多いのではないでしょうか。魚沼産の米と清冽で良質な天然水が、世界に誇る越後の銘酒の材料となっているのです。
ナチュラルミネラルウォーター「円水」の製造元である高千代酒造はその巻機山麓の蔵元の中でも優れた水源を所有しています。江戸時代の創業時から綿々と受け継がれてきた本物に対する強い固執により、幾多の越後蔵元の中でも高千代の存在は注目に値します。
グローバルウォーター社は高千代酒造を訪れ、円水や地酒の製造現場を取材しました。
日本酒の命、「仕込み水」
銘酒の命と言っても過言ではない仕込水。日本酒醸造における仕込水はスコッチウィスキー蒸留で使用されるマザーウォーターと同様に完成品の出来を左右するようです。品質の高いものはその土地だけでしか作れず、現地の気候や地層構造といった自然環境が重要であることはワインも同様かもしれません。日本酒も毎年味わいが微妙に変わり、高千代では常に品質に気を配っている気配が自然と伝わってきます。
高千代で使われている仕込水は、角のとれた柔らかさに特徴のある深井戸水です。余計なものが無い軟水、ただし硬度という線の尺度でこの水を評価するのは不可能で、この水が持つ深みを見逃す過ちを犯すことになります。日本酒で例えれば、選ばれた良質な米を半分までも磨きこむことで一切の余分を排除しやっと得られる大吟醸の内から伝わる深く上品な甘みのようなものが、地層構造の偶然により磨かれたこの地下水には感じ取ることができます。
名峰「巻機」の地下からの恵み
水源一帯は冬は雪で真っ白に覆われ、スロープが集合する湯沢のスキーリゾートからも遠くない地域です。訪れたのは1月ですが、一面は雪化粧で覆われた状態でした。
ボトルド・アット・ソース
ミネラルウォーターの本場ヨーロッパでは「ボトルド・アット・ソース」という概念があり、これは採水地で外気に触れず直接ボトリングすることで衛生管理の徹底と成分毀損を最小にすることを意図したものです。円水はそういう意味ではまさにボトルド・アット・ソース、水源からトラックで工場まで運んでも規則違反ではない日本においてはこの点の表記義務が無く、結構重要なポイントでありながら玉石混交から本物を判断することが難しい所以とも言えるでしょう。 |
醸造所兼ボトリング工場の脇にひっそりと佇む原水の水場 |
水だけでなく今後注目の高千代酒造
八海山をはじめとするメジャーな酒蔵を多く持つこの地域で、派手さからは無縁ながらしっかりとした品質を保ち続ける高千代は、お酒とは畑違いの水広場でも今後注目の企業です。
取材では、高千代の酒を愛する蔵人達が確かな技術と比類なき情熱を持って日々の醸造に渾身している様が見てとれました。高千代の蔵人たちがその結果として1級資格を取得しているのは至極当たり前のことのようです。
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2008年2月1日取材